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2008年02月のアーカイブ

老人介護、堂々とプロに任せよう

老人介護、堂々とプロに任せよう


ソーシャルダンスを楽しむ入居者たち(神戸市中央区の介護付き有料老人ホーム「海岸通・エレガーノ神戸」で) 「まあ、ピンピン、コロリでいらっしゃいましたのねえ」と、某大物政治家夫人。

 有料老人ホームにいた八十六歳の母が、亡くなる数時間前までマージャンを楽しむほど元気だったが、クモ膜下出血で苦しまず急逝したとの話をすると、羨(うらや)ましそうにこう言われた。

 「ピンピン、コロリ」とは言い得て妙だが、母の場合はまさにそうだったのだ。

 「人生いろいろ」なのだから、晩年のライフスタイルもさまざまでいいと思う。三世代住宅で孫たちに慕われる、あるいは財布をアテにされるもよし、若者とは生活ペースが合わないからと、同世代の話し相手と「自由」を求めて施設に移る選択肢もある。

 価値観や状況には個人差があり、だいいち、これまで人類が経験したことのない少子高齢化・グローバル社会を迎えた今日、これまでの日本の「常識」が通用するとは限らない。そこへ従来の道徳を持ち出して批判、非難するべきではない。

 つまりここで私が言いたいのは、老人介護の問題についてである。

 六十八歳でメリーウィドーとなった母には、我々夫婦と一緒に暮らす気はなかった。私は一人っ子。従って母は老後の単身生活を選び、七十歳で自宅を建て替えたときも、そのつもりで設計させた。

 今思えば不思議なのだが、我々夫婦にも、わずか一駅離れただけの実家に移るという発想はなかった。折りしもバブルの頂点。その四年前に買ったマンションは、なんと六倍の値をつけていた。あのとき売却して母と同居すれば、ひと財産手に入ったわけだ。ちなみに現在、このマンションはほぼ購入価格に下がった。

 けれども私は、大金を得るチャンスを逃がしたことを惜しいとは思わない。三人の同居生活でお互い気を遣い、ひょっとしたら介護させられるようになった可能性もある。

 それよりも、八十四歳でまだ自立生活を送れる母を三か月かかって説き伏せ、神戸・海岸通りの有料老人ホームに入居させてよかったと思っている。実はその頃(ころ)、母は寂しさを訴え始めていた。近所からは同年代の知り合いが、当然ながら徐々に減ってゆくのだ。

 それでも入居には抵抗感のあった母だが、食堂や大浴場などでの「社交」のおかげで、独り暮らしのときよりも表情は明るくなり、神戸港が一望できる施設で最後の二年間を送った。亡くなる半年前には、冬のドイツを旅するほどエネルギッシュになった。自分より若い入居者たちが活発に遊ぶ姿にも、触発されたようだ。

 しかるべき施設は、高齢者用に設計され、プロが世話をしてくれるので、自宅にいるよりはるかに安全だ。いくら子どもが献身的でも、毎日二十四時間、面倒を見ることはできまい。もしヘルパーを二人住み込ませて老人ホームと同じレベルの介護をしてもらおうとするなら、、毎月、百万円近い出費が必要となる(実際、義父のときにはそうだった)。

 だが、我が家にはそんな資産も収入もない。母は結局「ピンピン、コロリ」となったが、通常、育児とは異なり老人介護の先は見えない。オムツがとれるどころか、ますます知力・体力が衰える。

 そんな自宅介護で犠牲になるのは、主に女性。妻の場合も多いが、娘に負担がかかることもある。そしてそれを無責任な世間や親類は「当たり前」と考え、マスコミは美談にし、ますます彼女らにプレッシャーがかかる。あげくの果てに「介護地獄」。「早く死んで欲しい」と願い、最悪の事態、つまり殺人だって起こりかねない。

 そのように追いつめられるのは、実は大変真面目(まじめ)な方々なのだと思う。介護を義務として引き受け、頑張りすぎて精神的にも肉体的にも自分の限界を超えてから、やっと施設を探し、入れるところならどこでもと収容させてしまう。これでは現代姥捨山(うばすてやま)のイメージは拭(ぬぐ)えまい。

 老人ホームに入れることは、決して親不孝ではない。子どもは、親がまだ元気なうちに、時間的余裕をもって情報を集め、自分で納得できる施設を探せばいい。三世代住宅を親に建ててもらおうなどと虫のいいことを考えなければ、超豪華な施設でない限り、中流階級なら資金はあるはず。

 しかし「まだ元気」とか、「住み慣れた家を離れたがらない」との理由で、子どもは問題を先送りにし、ある日突然、親が倒れて介護地獄の幕が開く。

 いくら高齢化社会でも、やはり「人生は短い」。老人介護をプロに任せて自分の時間を大事にすることに罪悪感を持つのは、そろそろやめようではないか。

堀江 珠喜 (ほりえ・たまき)
 大阪府立大学教授・比較文学 1954年兵庫県西宮市生まれ。著書に「『人妻』の研究」「純愛心中――『情死』はなぜ人を魅了するのか」「おんなの浮気」「悪女の老後論」ほか。

(2008年02月20日 読売新聞)


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未来の介護『大丈夫?』 ハンガリー人東大生が見た日本の現場

未来の介護『大丈夫?』 ハンガリー人東大生が見た日本の現場


 ハンガリー出身の東大生が、介護現場を回って卒業論文を書いた。テーマは「外国人介護労働者の受け入れ問題」。人手不足に悩む業界だが、高齢化の進展で要介護者が増えれば、避けては通れない問題だ。そんな日本の介護現場をどう見たのか。 (広川一人)

 「介護サービス提供側から見た外国人介護労働者の受け入れ」をまとめたのは、東京大学文学部社会学専修課程四年のハンガリー人、ビラーグ・ビクトルさん(24)。

 十九歳のとき日本でホームステイし、「優しい社会が肌に合った」とあらためて日本に留学した。「世界一の高齢化社会こそ日本社会の象徴」との思いから卒論のテーマに介護を選んだ。

足で調べる
 二〇〇六年に、日本とフィリピンが結んだ経済連携協定(EPA)に注目した。外国人介護福祉士受け入れをめぐる日本の事情を、国、県、市町村、介護事業運営者、現場職員の五つの階層に分け、それぞれの立場の人にインタビューを重ねた。国際厚生事業団、在日フィリピン人協会、東京都庁にも足を運んだ。

 指導した武川正吾教授(福祉社会学)も「社会学のゼミで介護を選んだのは彼だけ。アンケートの数値分析などが多い中、日本人でもあまりやらないフィールドワークという昔ながらの研究手法を踏襲し、問題意識もはっきりしている」とその調査姿勢を評価する。

 ビクトルさんが指摘した第一の問題は「長期的計画の不在」。「いずれ、国内の労働力だけでは介護を支えきれない見通しがあるにもかかわらず、厚生労働省は今回の受け入れを国際協力としかとらえず、将来の参考にしようとする意識がない」

高いハードル
 次に「不利な条件や差別の壁」だ。その一つが、国家資格取得の高いハードル。昨年の介護福祉士国家試験合格率は50・4%と半分程度。まだ外国人の受験は少ないが、日本語での受験は外国人にとって不利になる。「フィリピン人が資格を取得しても、活動の場は施設だけで、在宅介護は禁止される。日本人でも同様だが、福利厚生など生活支援の欠落も課題として残る」

 資格取得のため三年間の研修を積む施設就労では、対応は受け入れ施設に任されており、教育を無視し労働力だけ搾取する悪質な事業者出現の懸念も指摘する。

 ビクトルさんが感じているのは、現場と制度の温度差だ。特に、介護の専門性ばかり要求されることに疑問を呈する。「日本語での記録など一部は、制度で示す専門性が求められるが、外国人ヘルパーと働いた経験のある現場職員の多くが重視したのは『人柄』だった」

 外国人介護福祉士の受け入れは「安い賃金で雇用すれば、介護職の地位を低下させる」(日本介護福祉士会)などの反対意見も強い。この点は「同等な賃金を保障することが重要で、日本人が集まりにくい地域での採用が見込まれる」と分析する。

 「懸念されるのは、利用者の外国人に対する抵抗感。戦争体験のある認知症利用者は、予期せぬ反応があるかもしれない」

 「いずれにせよ、国内だけでは介護労働力が不足する」と指摘。「今回の受け入れを準備期間ととらえ、長期的政策が不可欠だ」と強調する。

 現在、ビクトルさんは大学院の受験勉強と卒業単位の残りのリポートをまとめている。大学院では、外国人介護労働者を対象とした研究を行いたいと考えている。

<日本とフィリピンの経済連携協定(EPA)> 小泉政権時代に調印された。フィリピン人看護師400人と介護福祉士600人の日本への受け入れが柱。3年間の研修後、日本の国家試験に合格すれば、その後も労働できる。日本は国会承認したが、フィリピン側が未承認で発効していない。

中日新聞 - 2008年2月5日



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