2008年02月07日のアーカイブ
未来の介護『大丈夫?』 ハンガリー人東大生が見た日本の現場
ハンガリー出身の東大生が、介護現場を回って卒業論文を書いた。テーマは「外国人介護労働者の受け入れ問題」。人手不足に悩む業界だが、高齢化の進展で要介護者が増えれば、避けては通れない問題だ。そんな日本の介護現場をどう見たのか。 (広川一人)
「介護サービス提供側から見た外国人介護労働者の受け入れ」をまとめたのは、東京大学文学部社会学専修課程四年のハンガリー人、ビラーグ・ビクトルさん(24)。
十九歳のとき日本でホームステイし、「優しい社会が肌に合った」とあらためて日本に留学した。「世界一の高齢化社会こそ日本社会の象徴」との思いから卒論のテーマに介護を選んだ。
足で調べる
二〇〇六年に、日本とフィリピンが結んだ経済連携協定(EPA)に注目した。外国人介護福祉士受け入れをめぐる日本の事情を、国、県、市町村、介護事業運営者、現場職員の五つの階層に分け、それぞれの立場の人にインタビューを重ねた。国際厚生事業団、在日フィリピン人協会、東京都庁にも足を運んだ。
指導した武川正吾教授(福祉社会学)も「社会学のゼミで介護を選んだのは彼だけ。アンケートの数値分析などが多い中、日本人でもあまりやらないフィールドワークという昔ながらの研究手法を踏襲し、問題意識もはっきりしている」とその調査姿勢を評価する。
ビクトルさんが指摘した第一の問題は「長期的計画の不在」。「いずれ、国内の労働力だけでは介護を支えきれない見通しがあるにもかかわらず、厚生労働省は今回の受け入れを国際協力としかとらえず、将来の参考にしようとする意識がない」
高いハードル
次に「不利な条件や差別の壁」だ。その一つが、国家資格取得の高いハードル。昨年の介護福祉士国家試験合格率は50・4%と半分程度。まだ外国人の受験は少ないが、日本語での受験は外国人にとって不利になる。「フィリピン人が資格を取得しても、活動の場は施設だけで、在宅介護は禁止される。日本人でも同様だが、福利厚生など生活支援の欠落も課題として残る」
資格取得のため三年間の研修を積む施設就労では、対応は受け入れ施設に任されており、教育を無視し労働力だけ搾取する悪質な事業者出現の懸念も指摘する。
ビクトルさんが感じているのは、現場と制度の温度差だ。特に、介護の専門性ばかり要求されることに疑問を呈する。「日本語での記録など一部は、制度で示す専門性が求められるが、外国人ヘルパーと働いた経験のある現場職員の多くが重視したのは『人柄』だった」
外国人介護福祉士の受け入れは「安い賃金で雇用すれば、介護職の地位を低下させる」(日本介護福祉士会)などの反対意見も強い。この点は「同等な賃金を保障することが重要で、日本人が集まりにくい地域での採用が見込まれる」と分析する。
「懸念されるのは、利用者の外国人に対する抵抗感。戦争体験のある認知症利用者は、予期せぬ反応があるかもしれない」
「いずれにせよ、国内だけでは介護労働力が不足する」と指摘。「今回の受け入れを準備期間ととらえ、長期的政策が不可欠だ」と強調する。
現在、ビクトルさんは大学院の受験勉強と卒業単位の残りのリポートをまとめている。大学院では、外国人介護労働者を対象とした研究を行いたいと考えている。
<日本とフィリピンの経済連携協定(EPA)> 小泉政権時代に調印された。フィリピン人看護師400人と介護福祉士600人の日本への受け入れが柱。3年間の研修後、日本の国家試験に合格すれば、その後も労働できる。日本は国会承認したが、フィリピン側が未承認で発効していない。
中日新聞 - 2008年2月5日
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